【ウメノキゴケ】盆栽・生け花・園芸に使われる地衣類の苔

【ウメノキゴケ(梅の木苔)】とは、菌界 子嚢菌門 チャシブゴケ菌綱 チャシブゴケ目 ウメノキゴケ科 ウメノキゴケ属に分類される、地衣類の苔です。盆栽・生け花・園芸に使われ、梅や松に着いたものは古くから珍重されています。

ウメノキゴケは苔とはいうものの、いわゆるコケ植物(苔類・蘚類・ツノゴケ類)ではなく、菌類と藻類が共生する地衣類という植物です。では、なんという菌類と藻類が共生しているのかというと、これが実はあまりはっきりしたことがわかっていない不思議な生き物なのです。

ある研究報告では、ウメノキゴケの構成には3つのタイプが混在していたといいます。その一つは葉状体が単一の繁殖体から発達したもので、ふたつめが単一の繁殖体に新たな共生藻が加わってできたもの、みっつめが独立した複数の繁殖体が癒合してできたものなのだそうです。

ウメノキゴケの葉状体は薄く樹木の幹や枝に広がって着生し、大きなものになると差し渡し10センチにもなってしまいます。葉状体の先端部分がハート形の上部分に見えないこともなく、見ようによっては可愛いとも言えるのではないでしょうか。

ただその色合いが灰緑色で、表面は灰色系の水色、裏面は縁が淡褐色で内側が白系から濃い褐色と、あまりパッとした色合いではありません。このためどこか暗い雰囲気で、毛嫌いする人が多いことにはうなずけます。

日本海側の豪雪地帯を除き、東北地方から南にごく普通に生育しています。雪の他に排気ガスにも弱いところがあって、あまり都会の中心部で見かけることはありません。

どちらかと言えば乾燥した場所を好み、田舎に行くと民家の庭先から森林まで広く生育しています。その名のとおり梅の木はもちろんのこと、松・桜・ツツジなど多くの樹木に貼り付き、木々の見た目を落としています。

別にウメノキゴケが着生したからといって、樹木の生育に悪影響を及ぼすかといったらそんなことはなく、ただ見た目だけで嫌われているところがあるのです。苔の方としては、樹木の弱ってきたところが居心地が良いため着生しているだけで、それが樹木を弱らせる原因ではないので誤解してはいけません。

それでも、人はそれぞれで、盆栽をする人にとってはウメノキゴケの見た目は”風景”の一部になって風情があるので好まれ、生け花・園芸でも採用されることもあるのです。

ウメノキゴケは嫌われる反面、盆栽・生け花・園芸などに利用されますが、この他にも草木染めに使われることもあります。実際にウメノキゴケで草木染めをしている人の手順は、次のようにかなり面倒そうではあります。

まず、他人の山の樹木を荒らすことはできないので、ウメノキゴケの着生した松を買ってきて、剥がした苔の汚れを落としてからミキサーで粉々にします。その後、ペットボトルに苔の粉末とアンモニア・水を入れて発酵させます。

1日くらいも置いておけば発酵液は紫色になってきますので、これを鍋に入れて適度に水を足して沸騰させていきます。個人的にやっていることなので分量などはかなり適当ですが、自分で楽しむ分にはこれで充分に木綿の服を染めることができるのです。

実際にこの草木染めをしてみたいと時には、煮沸時のアンモニアの臭いは半端ではないレベルのため、屋内でやるにしても屋外でやるにしても、周囲などへの配慮を充分に行なう必要があるでしょう。

【苔盆栽】小さな生命の世界が日常を劇的に変えるかもしれない!

【苔盆栽】とは、一般の樹木は使わずに苔だけで作る盆栽のことです。苔で構成された小さな生命の世界が、もしかしたらあなたの日常を劇的に変えることがあるかもしれないのです。

但し、中には普通の盆栽が一般の樹木と苔のコラボレーションがすばらしいこともあって、苔に一般の樹木をちょっと添えて苔盆栽としている場合もあったりします。簡単に考えれば、本来の盆栽では脇役となっている苔を主役にして、一般の樹木を脇役にしたものが苔盆栽と言えるでしょう。

盆栽に良く使われる苔で第一にあげられるのが「ギンゴケ(銀苔)」で、都会から田舎まで日本全国に生育し、その名のとおり銀色気味の白緑色から灰緑色をしてきれいです。

次にあげられる「スナゴケ(砂苔)」もまた日本全国に普通に生育していて、星空のような群生状態がとてもステキです。この他、「ホソウリゴケ(細瓜苔)」・「ヒロクチゴケ(広口蘚)」・「コツクシサワゴケ(小筑紫沢蘚)」・「タチゴケ(立苔)」・「コスギゴケ(小杉苔)」・「ハイゴケ(這苔)」などがあります。

では、苔盆栽を作ってみましょう。まず準備するものは、小さい鉢・鉢底ネット・2~3ミリほどの赤玉土・適量の水・ケト土・スナゴケ・コガネスゲ・篩で1ミリに揃えた富士砂

小さい鉢に鉢底ネットを敷いたら、赤玉土を鉢の6分目ほどまで入れます。一方、水で練ったケト土をスナゴケの仮根に乗せ充分に馴染ませたら、先ほどの鉢に入れます。

スナゴケの量は鉢よりひとまわりくらい多くし、ちょっと縮めるような感じで鉢に入れていった方が良いでしょう。この時注意しなければならないのは、赤土とケト土に間に隙間を作らないことで、そうすることによって苔の変色を防ぐことができるのです。

基本的にはこれだけで苔盆栽にはなるのですが、もう少し風情を醸し出すために一般の草物を添えてみましょう。例えば山野草のコガネスゲの根を半分くらい切って揃えて、手の平の上でケト土で根を包むようにしてから、鉢の片隅にスナゴケと同じように植えつけます。

一般の草物を苔盆栽に添える場合には、鉢いっぱいに苔を入れず草物の分のスペースを開けておかなければなりません。そして、草物を植え付けて残った空スペースには富士砂を入れて見た目を整えるのです。

もうひとつ、苔盆栽の例を紹介しましょう。ここで準備するものは、ケト土2~3百グラム・小粒赤玉土少々・粉状のミズゴケ少々・水適量・洋風敷砂利1個・器・鉢底ネット・稚児笹・ケヤキ・ソヨゴ・ギンゴケです。

完成イメージは、器の中心にギンゴケを貼り、その中に稚児笹・ケヤキ・ソヨゴを並べて植え付けるというものです。器はただの円形だけでなく、楕円や不定形のものにしたり、食器皿で代用しても良く、植え付ける植物もいろいろ好みで変えて見てもかまいません。

ケト土・赤玉土・ミズゴケを水でこね合わせ、ケト土に混じった植物の根などを取りながら耳たぶくらいの固さにして泥団子にします。植え付ける植物の方は、根についた土を落として、水洗いしておきましょう。

自分が作りたいとイメージした盆栽の大きさよりひと回り小さく鉢底ネットをカットし、その角は後から見えないように丸く切り落としておきます。そして、ネットを器に置いてその上に泥団子を押し付け、厚さ5ミリくらいに成形します。

ここからはセンスの問題ですが、泥団子の土台の中ほどに植物を配置し、周囲にギンゴケを貼り付けていけば苔盆栽の完成となるのです。

苔にとって良い環境は、明るい日陰と良好な風通しです。大体1日2~3時間程度の日当たりと、毎朝の水やり、できるだけ屋外に置いてあげることで、苔は元気に生育してくれます。

【苔ガール】美しくて奥深い苔の世界に魅了される女性達

【苔ガール】とは、美しくて奥深い苔の世界に魅了される女性達のことです。「歴女」・「鉄子」・「山ガール」など多くの「マニア女子」がいる中、「苔ガール」も結構なマニアのエリアに入っているようです。

2013年4月、中川翔子さんのマニアを紹介するテレビ番組の最初のゲストとして、2週に渡って「苔ガール」のツアーコンダクター・吉澤かおりさんが紹介されました。但しこの時のマニアとしての名称は「コケ女」だったようで、こけし好きの女子とかぶってしまっています。

吉澤さんは元々登山が好きな「山ガール」だったのですが、北八ヶ岳の登山で苔と運命的な出会いを経験し、その後は月2ペースで登山プラス苔散策を行なうほどの「苔ガール」になったのでした。番組では、彼女が苔の探し方・観察の仕方・愛し方(!!)などを、マニアっぷり満載で披露したのです。

一緒にブロック塀の側面の苔を観察したりしたMCの中川さんは、”優しいおじいさんの髭”や”犬のおでこ”のような苔たちの個性を感じとり、一気に苔の世界にはまってしまったのでした。

2014年10月には、テレビ東京の番組で苔好きタレントの田中卓志さんと井森美幸さんを苔ツアーに案内しています。訪れたのは神奈川県鎌倉市山ノ内から扇ガ谷を結ぶ坂道・亀ヶ谷坂の切通で、とてもめずらしいツノゴケ類のニワノツノゴケ(庭角苔)を見つけ、壁面に繁茂する苔の香りを楽しんだのです。

今では自分で苔を楽しむだけではなく、苔に関するブログなどでその世界を発信している「苔ガール」も増えています。女子がやっている多くのブログの中に、苔に関する記事がいっぱい見られるようになってきました。

女子がやっている苔専門のブログには、苔・旅・山が好きな女子による苔の魅力を広めようとする「かわいいコケ ブログ I’m loving moss!」や、”苔玉 テラリウム 盆景 苔 moss garden”さんの「苔とわたしのひとりごと 大阪 苔玉 苔テラリウム 苔アート ワークショップ」などがあります。

苔ガールの興味の対象は、苔玉・苔テラリウムに始まり、苔観察へと発展し、苔をテーマとした女子旅まで現われています。自宅で苔玉や苔テラリウムを作っているのは当たり前で、ルーペを手に苔のマットに食いついている女子の姿を見るのはそれほどめずらしくなくなってきました。

かの有名な星野リゾートでは「苔ガールステイ」と銘打って、奥入瀬渓流ホテルでの滞在プランを行なっています。ミクロの神秘的な苔の世界に出会い、繊細な苔の花から新たな視点が生まれる、清涼感溢れる女子旅になるというのです。

旅のスケジュールは、1日目午後3時に”苔ルーム”にチェックインし、夕方5時からはラウンジで苔をイメージした”苔玉アイス”を食べて女子会が始り、6時からは西洋膳処で新感覚の会席スタイルを取り入れた料理で夕食となります。そして、8時からはオプションで”苔ルーム”でオードブルやカクテルを楽しめるのです。

旅の2日目が苔の女子旅のメインイベント”苔さんぽ”があり、10時ルーペを片手に苔散策へと向かいます。そして、午後1時には苔をイメージした”苔ランチプレート”で一息つき、午後2時には旅のお土産となる苔玉作りに挑戦できるのです。

奥入瀬渓流で出会える苔は、苔界のアイドル「タマゴケ(玉苔)」・光沢ある花に見える美しい葉の「コツボゴケ(小壺苔)」・花火のように岩に群生する「コバノスナゴケ」・水を葉間に貯めて輝く「スナゴケ(砂苔)」・モフモフ感満タンの「オオシッポゴケ(大尻尾苔)」などです。

【苔好きタレント】元祖癒し系から元祖キモカワまで幅広い苔好き

【苔好きタレント】とは、苔ブームを広く世間に知らしめている人たちでしょう。元祖癒し系とも言われる本上まなみさんから、元祖キモカワ芸人アンガールズの田中卓志さんまで、幅広い苔好きタレントがいっぱいです。

他に苔好きで知られる有名人としては、俳優の堺雅人さん・乃木坂46の伊藤万理華さん・劇団出身の石倉良信さん・美容家の岡本静香さん・元プロレスラーの起田高志さんなどがいます。

本上まなみさんは、女優・ナレーター・エッセイストと幅広く活躍しているアラフォーのタレントです。1993年にテレビドラマで女優デビューを飾り、1999年に初のエッセイ「ほんじょの虫干。」を出版、紀行番組にも出るようになり、映画・アニメの声優・ラジオパーソナリティー・舞台・CM・絵本の出版とその才能を発揮しています。

大阪出身で4歳から20年間を大阪・兵庫で過ごし、大学は京都の池坊短期大学だったことから京都で苔にはまっていったようです。2013年までは東京に住んでいましたが、4月から京都へ移り住んで現在に至っているのです。

日本ではバブルが崩壊し消費税もアップ、大不況の中で人々のすさんだ心を和らぎさせる「癒し系」と呼ばれる女性たちが現われはじめました。初見がCMの飯島直子さん、そして優香さん、これに続いて本上まなみさんや井川遥さんなどが続いたのです。

本上さんは、かなり早いうちから紀行番組の中などで苔好きを公表していて、好きな苔はヘチマゴケだそうで、今では苔好きタレントとして良く知られた存在です。2015年にも、BSの紀行番組「苔旅-コケタビ-」で、田中卓志さんと二人、苔の聖地とも言われる青森県の奥入瀬渓流へと旅をしています。

その田中卓志さんは、元祖キモカワ芸人アンガールズ(山根良顕とコンビ)のメンバーで、苔ブームに乗って再ブレイクの兆しが見られます。彼には乙女チックな趣味がいくつかあって、紅茶やバイオリンと並んで苔栽培にはまっているそうです。

テレビでは、本上まなみさんとの「苔旅」の他、東海テレビのバラエティで苔玉作り・コケ食をやったり、日本テレビの「所さんの目がテン!」の「苔の科学」の回に出演、NHKの「高校講座」でコンビでMCを務めて苔栽培を取り上げたこともあります。好きな苔は、キダチヒラゴケだそうです。

堺雅人さんは、苔の栽培と鑑賞を趣味としていて、仕事の無い日には育てている苔を我が子のように可愛がっているのだそうです。その苔は盆栽セットで、それが生き生きと育っている様子を目を細めて鑑賞しているのでしょう。

伊藤万理華さんは、趣味が苔や鉱石の観察と収集ということで、テレビ愛知の番組「乃木坂工事中」の「伊藤万理華のコケ探訪」というコーナーで、ゲストの田中卓志と一緒に色々な苔を観察しています。スナゴケ・コバノチョウチンゴケ・ゼニゴケ・ジャゴケなどが続々登場し、田中さんの解説もあります。

石倉良信さんはかなり強烈な苔好きで、「苔園」というオフィシャルホームページを開設して、”苔友”を増やそうとしているようです。HPの構成は、苔の基礎知識辞典「苔辞苑」・オフィシャルブログ「苔日和」・毎日更新日めくり「枯れんダー(カレンダー)」などです。

【苔の日本庭園】苔・紅葉・萩・竹と四季折々の箱根美術館の庭園

【苔の日本庭園】とは、苔・紅葉・萩・竹と四季折々の箱根美術館の苔庭「神仙郷」のことです。神奈川県足柄下郡箱根町にあり、11月の紅葉の頃には苔の緑とモミジの赤のコントラストが絶景です。

日本庭園のランキングでは、日本庭園の全てが味わえると言われる島根県「足立美術館」、涙が出るほど美しいと評価される京都府「桂離宮」、松を基調として花の美しい山梨県「湯村常盤ホテル」などが上位を占めています。

以下、京都府「御所西 京都平安ホテル」・東京都「山本亭」・福井県「養浩館庭園」・京都府「無粼菴」・島根県「佳翠苑皆美」・香川県「栗林公園」・広島県「庭園の宿 石亭」などが続きます。

これらの日本庭園では、全体の出来上がりとしての素晴らしさはもちろん逸品なのでしょうが、その中で苔は一要素を占めているだけで、「苔の日本庭園」と呼ぶには少し力量不足かもしれません。

その点、箱根美術館の苔庭「神仙郷」は「苔の日本庭園」と呼ぶにふさわしい苔スポットと言えます。そこには種の数では日本一の多さとされる130種ほどの苔と、200本のモミジが饗宴し、訪れる人の目と心を和ませているのです。

ここで見ることができる苔は、スギゴケ・タチゴケ・ヒノキゴケ・コツボゴケ・エビゴケ・フデゴケ・ホソバミズゴケ・ホソバオキナゴケ・ジャゴケ・ヒメジャゴケ・ヒジキゴケ・シノブゴケ・ハイゴケ・エダツヤゴケ等々、書ききれるものではありません。

漢字で表わすと、杉苔・立苔・檜苔・小壺苔・海老苔・筆苔・細葉水蘚・細葉翁苔・蛇苔・姫蛇苔・鹿尾菜苔・忍苔・這苔・枝艶蘚となり、何となくその姿を想像できることと思います。この愛らしい苔の姿を入れ込んだ庭の光景は素晴らしく、撮影スポットとしての知名度は群を抜いているのです。

苔庭の広さは千九百平米、渓流や垣根に包まれた癒しの空間を形作っています。庭に面した茶室「真和亭」では、無農薬栽培の抹茶と季節に合わせた和菓子を楽しむことができ、一層現実世界を離れた癒しの世界へ入って行ける気がしてくることでしょう。

正確に言うと「神仙郷」は「苔庭」と「萩の道」・「竹庭」などから構成されており、それぞれに四季を感じさせる景観を見せてくれます。全体として最も見頃の時期が11月で、苔とモミジの緑と紅葉の色づきがきれいなのです。

「苔庭」は新緑の春、雨に煙った不思議な梅雨時も充分に見頃で、秋の紅葉の時期になって最高のレベルに達するのです。一方、「萩の道」は9月中下旬辺りが特に見頃となり、「竹庭」は美術館本館とコラボレーションした調和のとれた景観を見せてくれます。

箱根美術館へは、新幹線ならJR東海道線小田原駅から箱根登山鉄道に乗り換え強羅駅まで行き、ケーブルカーで公園上駅を降りるとすぐです。小田急ロマンスカーを利用する場合は、箱根湯本駅での乗り換えとなります。

車を利用する場合には、小田原駅から40分、東名御殿場インターチェンジからは1時間ほど、東名厚木道路の箱根新道湯本出口からは2時間ほどかかります。駐車場は無料で、9時から17時まで開いていますが、大型バスの場合は事前に確認が必要です。

【黒山三滝】多くの文化人に愛された鉱泉宿近くの苔スポット

【黒山三滝】とは、「日本蘚苔類学会」が「黒山三滝と越辺川源流域」として「日本の貴重なコケの森」に選定した苔のスポットです。場所は埼玉県入間郡越生町黒山で、多くの文化人に愛された鉱泉宿近くにあります。

黒山三滝へは、電車なら東武越生線とJR八高線の越生駅から川越観光バス「黒山」行きで終点まで行き、そこから徒歩で15分ほどで行くことができます。車の場合は、関越自動車道の鶴ヶ島インターチェンジから40分、東松山インターチェンジから30分ほどで行くことができます。

黒山とは、東京の青梅市と奥多摩町、埼玉の飯能市に跨る標高842.3mの山です。通常は隣接する高水三山や棒ノ折山へ登るための通過点となっていて、この山へだけ行く目的としては三滝を見るためのハイキングがあります。

三滝とは、荒川水系越辺(おっぺ)川源流部の三滝川にある、男滝(おだき)・女滝(めだき)・天狗滝の3つを表わしています。県立黒山自然公園内にあり、「新日本観光百選」の「瀑布の部」で9位にランクインしたこともある、紅葉の名所でもあります。

男滝の落差は10m、その1段下に落差5mの女滝があり、その下流の少し離れた所に落差20mの天狗滝があります。滝の周辺は室町時代から続く山岳宗教修験道の拠点となっていて、複数の宗教施設が建てられれて修行の場になっているのです。

三滝へ行く手前には「黒山鉱泉」という温泉地があり、古くから小説家の田山花袋・詩人の野口雨情・国文学者の佐佐木信綱など、実に多くの文化人に愛されていました。

黒山は苔類のミドリホラゴケモドキの基準標本の産地になっていて、他に苔類ではトサハネゴケ・ニセヤハズゴケ・カビゴケ・ナガシタバヨウジョウゴケ、蘚類ではツガゴケ・キヨスミイトゴケ・ヘリトリシッポゴケ・ミギワイクビゴケ・ヒロハチャイロホウオウゴケなどが生育しています。

ミギワイクビゴケは、全国的には「絶滅危惧」指定で、福島県・栃木県・愛媛県で「絶滅危惧」指定になっています。

カビゴケは、全国的には「準絶滅危惧」指定で、福島県・栃木県・埼玉県・愛知県・京都府・大阪府・島根県・岡山県・山口県・愛媛県で「絶滅危惧」指定になっています。また、千葉県・三重県・広島県・福岡県・大分県・長崎県・宮崎県で「準絶滅危惧」指定になっています。

ツガゴケは、埼玉県・神奈川県で「絶滅危惧」指定になっていて、福島県・栃木県・千葉県・大阪府で「準絶滅危惧」指定になっています。そして、キヨスミイトゴケは、宮城県・栃木県・埼玉県・神奈川県で「絶滅危惧」指定になっていて、福島県・千葉県・長崎県で「準絶滅危惧」指定になっているのです。

ミドリホラゴケモドキ・トサハネゴケは埼玉県の「絶滅危惧」指定、ニセヤハズゴケ・ナガシタバヨウジョウゴケは千葉県の「絶滅危惧」指定になっているのです。そして、ヘリトリシッポゴケは、愛知県の「絶滅危惧」指定になっているのです。

以上のように黒山三滝に生息する苔の多くは、日本各地で絶滅が心配される状況にあり、とてもめずらしいものとなっているのです。

【ジャゴケ】ゼニゴケよりも大きくて同様な扱いの苔類の苔

【ジャゴケ】とは、ゼニゴケ植物門 ゼニゴケ綱 ゼニゴケ目 ジャゴケ科 ジャゴケ属に分類される、コケ植物の苔類の苔です。ゼニゴケよりも大きく日本庭園で使われますが、一般的には雑草として同様な扱いを受けています。

苔類の苔が嫌われる理由はその見た目にあって、基本的に気味が悪いというのが一番でしょう。ジャゴケにしても、漢字で表わすと「蛇苔」であり、見た目が蛇の鱗に似ているというのが一般的には気持ち悪く感じられるようです。

その葉の大きさは10センチ以上にもなりゼニゴケよりも大きく、ゼニゴケにも増してその気持ち悪さは強いかもしれません。そして、その葉は二股に枝分かれしていき、ワサワサとどんどん重なり合って増殖していくのです。

しかし、世の中には爬虫類や”ブサカワ”な生き物が好きというマニアもおり、このような人たちにはジャゴケも可愛い・美しいと感じるものなのです。ワニ革のブランドバッグを好むセレブがいるのも、これに近いところでしょうか。

ジャゴケについては、最もポピュラーな情報はその除去の仕方なのですが、中にはマニア向けなのかジャゴケの育て方というものもあります。また、ジャゴケが松葉や松茸に似た香りを放つという面もあるためか、ジャゴケを食べるという驚きの話も出てくるのです。

ジャゴケは、半日陰を好むため、低地や林床などの木々の間から日差しが漏れ差す場所を好んで繁茂しています。また、乾燥にはある程度の耐性は高いのですが、基本一般的な苔と同様に湿ってあまり日の当たらない場所であれば、人家の周囲でも生育することができるのです。

半日陰を好む性質から、室内での栽培に適していて、朝日が差し込むだけの室内で一日数時間ほどの光合成で充分栄養補給ができます。また、乾燥への耐性も高いため、蛇の鱗柄の表面が乾いてきたなと思った時に、保湿を行なうだけの簡単な手入れで済んでしまいます。

さて、ジャゴケを自分で育ててみたいという時に、それを手に入れるには購入と採集という二つの方法があります。しかし、販売されている単体のジャゴケはほとんど見られず、盆栽やテラリウムになった”出来あがり”のものだけなのです。

そこでジャゴケを採集することになるのですが、まず自生している場所を見つけなければなりません。一番の近場では民家のジメジメとした裏庭なのですが、そこに無ければちょっと山中に入ってもらって、水の流れている辺りや腐植土で覆われた傾斜地などを探してみましょう。

見つけたジャゴケは、少しでも傷みを出さないように仮根についた土ごと、マットを剥がすように採集します。仮根は葉の裏側に蜘蛛の糸のような細かく白い綿状に付いているのですが、間違ってもこれをゴミと思って取ってしまわないに注意が必要です。

ジャゴケを食べるという話は少し驚きですが、基本的に苔には毒が無いので何も不思議なことでは無いのです。ちなみに、ジャゴケには松茸と同じニオイ成分の「マツタケオール」や、松茸の香りの添加物として使われる「ケイヒ酸メチル」が含まれているとのことで、食べて旨いのではないかと期待ができます。

かなりメジャーなテレビ番組で園芸用のジャゴケを食べるという企画が行われ、「ジャゴケの酢の物」と「ジャゴケチップ」というレシピが好評を得ていました。また、マニアの中にはジャゴケの試食をやっている人もいて、ジャゴケの竜田揚げ・味噌汁・ふりかけおむずび・ペペロンチーノ・白玉・お酒・お茶などのメニューをあげています。

【ゼニゴケ】日本庭園では喜ばれるけど一般的には雑草扱いの苔類の苔

【ゼニゴケ】とは、ゼニゴケ植物門 ゼニゴケ綱 ゼニゴケ亜綱 ゼニゴケ目 ゼニゴケ科 ゼニゴケ属に分類される、コケ植物の苔類の苔です。日本庭園では喜ばれます(?)が、人家の周辺に繁茂しやすく普通は雑草扱いされます。

茎と葉がはっきりと分かれていない葉状体で、二股に分かれながら増えていくその見た目は、多くの人から気持ち悪がられて少しかわいそうなところがあります。葉に見える部分の先端付近にある盃形の「杯状体」という構造が硬貨(=銭)にも見えることから、「銭苔」とも表記されるのです。

世界中至る所に生育し、日本でも北は北海道から南は九州まで、山林などの奥山よりはどちらかというと人家の周りに多く見られて、あまり喜ばれるものではありません。家の北側のジメジメした場所に好んで繁茂するため、ナメクジやミミズなどの絶好の住処となるところも、嫌われてしまう理由のひとつでしょう。

日本庭園では喜ばれているのか、それとも自然な雰囲気を演出しているのか、それほどゼニゴケを毛嫌いしているようにも見えません。一般に「コケ」として好まれている蘚類の苔ばかりでなく、苔という文字が入っている苔類の苔さえも分け隔てなく受け入れているところが日本庭園のすばらしさなのでしょう。

ゼニゴケの増え方の基本は胞子で増えていくもので、春や秋になると葉の様な部分から傘に似た形の二種類の構造が表われ、胞子を作り出すのです。この傘状のものは釘の頭のような雄株と傘の骨のような雌株で、これはこれで可愛く見えないこともありません。

雄株と雌株は離れた別々の場所に出てくるため、胞子を作り出すためには雄株の精子が雨水などを泳いで雌株まで行って、そこで雌株の卵と出会って胞子を生み出す必要があるのです。雄株と雌株の距離はなかなか遠いところにあるため、この方法での増殖はかなり難しいようです。

そこでゼニゴケは、その「銭」にあたる盃状の部分を自身の増殖に使う方法をあみ出しました。それは、何とも先進的なクローン技術を駆使したものです。

「銭」の中をよくよく観察すると、直径0.5ミリくらいの粒状のものを見ることができます。これがゼニゴケ本体の分身となるもので、雨が「銭」の中に溜まり溢れ出す時に、雨水と一緒に外へと流れ出すのです。

「銭」の外に出たゼニゴケの分身は、地面へと辿り着き、そこで立派なゼニゴケへと成長し、同じようにどんどん増えていきます。こうして、ゼニゴケは力強く増殖し、嫌われながらも健気に生きているのです。

ゼニゴケは世間一般では雑草扱いで、ほとんどの人が駆除したいものと考えているようです。しかし敵も中々手ごわいもので、普通の除草剤では効き目が無いのか専用のものが売られていたりもします。

繁殖した範囲がそれほど広くなければ、移植ベラなどで地面から剥がしてしまうという力技もありますが、なかなかそうもいきません。専用の除草剤を使うにも抵抗がある人は、石灰を撒いてみるのもひとつの方法で、アルカリに弱いゼニゴケの退治には効果があることでしょう。

ゼニゴケは鑑賞には値しないような嫌われ者との位置付けとは逆に、実験生物として有用とされている現実もあります。古くは19世紀の前半から研究論文が発表されており、近年では高血圧予防や遺伝子分野の研究対象となっているのです。

【松濤園】池上本門寺のミカヅキゼニゴケが可愛い苔スポット

【松濤園(しょうとうえん)】とは、東京都大田区池上にある日蓮宗の大本山の池上本門寺の奥庭です。4千坪もの敷地の随所に苔が繁茂し、ミカヅキゼニゴケが可愛いと思うマニアがいるほどの苔スポットなのです。

この庭園は、豊臣秀吉・秀長(秀吉の弟)・秀保(秀吉の甥)・徳川家康に仕えた大名で、茶人として有名な小堀遠州が作庭したもので、西郷隆盛と勝海舟が江戸城明け渡しの会見をした場所としても知られています。

平成3年に園内の改修が行われ、「根庵」・「鈍庵」・「松月亭」・「浄庵」という4つの茶室があります。湧き水の出る池を中心に、その周りに州浜・織部井戸・船付場・鶴島・亀島・魚見岩・太鼓橋など、滝口には渓流と渓谷・沢渡り・滝見橋・松濤の滝などが配されています。

池上本門寺と言えば、明治43年に五重塔で新種として発見された蘚類の「ホンモンジゴケ」が有名です。これはセンボンゴケ科に属する蘚類の苔で、普通であれば苔や生物にとって有毒である銅で汚染された土壌でも生きていられる、「銅苔」と呼ばれる種の仲間なのです。

境内を散策すると各所に苔を見ることができますが、やはり松濤園の中が最も苔が生育している場所になっています。ここには、実にいろいろな苔が繁茂しているのです。

園の中央にある池を左手に行くと、石畳の歩道の間にはアオギヌゴケ科の苔・コスギゴケ・ナミガタタチゴケなどが群生しています。他にチジミバコブゴケ・フタバネゼニゴケ・ミカヅキゼニゴケなども庭園の中にその居場所を見つけているのです。

アオギヌゴケ(青絹蘚)はキンキヒツジゴケとも呼ばれる蘚類の苔で、見た目は杉の葉のようです。コスギゴケ(小杉苔)もその名のとおり小さな杉の葉の姿、ナミガタタチゴケはスギゴケ科でやはり杉の葉に似ていて、いずれもその愛らしい形に心癒されます。

チジミバコブゴケ(縮葉瘤蘚)もまた蘚類の苔で、その名のとおり縮れた葉が特徴で、見た目が可愛いものです。これに対して、フタバネゼニゴケ(ニ羽銭苔)やミカヅキゼニゴケ(三日月銭苔)などの苔類の苔の葉は、ザラザラした感じの爬虫類っぽい見た目で、一般的にはあまり人気がありません。

しかし、苔マニアの中にはこのミカヅキゼニゴケを可愛い苔の部類に含めていたりもします。確かによくよく見てみると、葉の上の三日月型の無性芽器が可愛く見えなくもありません。

池上本門寺へは、東急池上線池上駅から歩いて10分、都営地下鉄浅草線西馬込駅からなら12~15分、JR京浜東北線大森駅か蒲田駅から20分くらい東急バスに乗れば、本門寺前バス停から徒歩5~10分で行くことができます。

車で行くという場合には、首都高速目黒線戸越出口から横浜方面へ15分ほど、首都高速羽田線羽田口から環状八号線と国道1号線を使って20分ほど、東名高速東京インターチェンジから環状八号線と国道1号線を使って25分ほどで行くことができます。

但し松濤園の見学は、限られた時期に行われる一般公開でしか叶いませんので、その情報にはしっかりアンテナを張っておかなければならないのです。

【苔の育て方 その3】苔はどんなタイミングで育てればいいのか?

【苔の育て方 その3】として、”苔はどんなタイミングで育てればいいのか?”というポイントを見ていきましょう。苔を育てようと思い立つ時期は人それぞれですが、一番いいのは春で、その次が秋なのです。

冬の間、苔は乾燥した空気と凍てつく寒さから身を守りながら休眠している状態です。こんな時にまったくの初心者が苔を育て始めようとしても、まずもってうまく成長させることはできないでしょう。

苔を育ててみようと思い立ったとしても、できることならば苔が目覚めて成長しやすくなる春先までは待ってください。そうすれば、初心者によるありがちな失敗は断然少なくなることでしょう。

まずは3月から4月上旬までの間に、自分がお気に入りの苔を採集するなり購入するなりして準備しておきます。そして、最低気温が氷点下とならなくなってきたら、具体的な植え付け日を計決定するのです。

最低気温が10度くらいまでで抑えられるようになってきた時が、苔を植え付けるには絶好のタイミングとなったと考えられます。南北に長い日本のことでもあり地域にもよるのですが、苔は3月くらいになると新芽を出し始めるため、新しく植えつけた時の定着率が格段に上昇してきます。

こうして春先に苔の植え付けを行なうと、雨の多い梅雨時までに定着させることができます。湿気を好むので梅雨時は何の問題も無いと思われがちな苔ですが、悪天候が続くと光合成が充分にできないため栄養分を生成することができず、成長しづらくなってしまうことから、梅雨時までの定着が不可欠なのです。

梅雨も明け夏に入ってしまうと、苔にとって強い日ざしは成長を妨げる天敵となります。うまく育て上げるには絶妙なタイミングでの水やりが必要で、これがうまくできなければ苔に蒸れや焼けを発生させてしまいます。

春の植え付けタイミングを逃してから一年も待っているのはつらいという人には、夏だけは我慢してもらって、暑さの和らいでくる秋の植え付けをお薦めします。秋の間は、冬の寒さが到来までの間に成長が続けられる、苔にとっては大事な期間なのです。

但し、台風の多発する時期に入ってしまうと、梅雨時と同様の問題も出てきますので、天気予報にはアンテナを張っておく必要があります。特に関東より西の地域においては、台風シーズンが終わるまで植え付けは待った方が良いでしょう。

苔の成長シーズンの秋も終わり、乾燥した寒い冬になってしまうと、苔は休眠状態に入ってしまいますので、植え付けのタイミングとしては最悪です。乾燥しているのなら水やりを頻繁に行なえばいいのかというとそうでもなく、かえって水が過剰になりがちなのでとても管理が難しく、苔の初心者にはお薦めしません。

以上は、苔を露地に植え付ける場合のタイミングでしたが、室内で苔玉・苔盆栽・苔テラリウムなどを育て始めるのには何の制限もいりません。苔に興味を持ち始めた時がベストなタイミングですので、さっそく苔の世界へと入って行ったら良いのではないでしょうか。